又吉克樹投手(中日ドラゴンズ)

又吉克樹投手(中日ドラゴンズ)

おきなわ野球大好き新春スペシャルインタビュー

2015-02-14

又吉克樹とのインタビューで、これぞプロだなと唸らされたのが彼の飽くなき向上心。僕らには立派に見える昨年の成績も、彼の前では虚無感にも等しいものであった。

全てが物足りない

香川オリーブガイナーズからドラフト2位で中日ドラゴンズへ入団した又吉克樹。プロ1年目にも関わらずオープン戦などで結果を出し続けて首脳陣の信頼を勝ち取ると、公式戦2試合目で登板した。 3月29日の広島カープとの戦いがそう。先発の大野雄大が5回まで1失点に抑えるも6回に2失点を喫してしまい降板。その後を受けた又吉克樹は、打者6人に対し、無安打無四球3奪三振と堂々のパーフェクトデビューを果たす。4月6日の巨人戦では、7回2失点と好投したカブレラの後を受ける8回に登板。2安打を浴びるが要所を締めて9回の岩瀬仁紀へ繋ぐプロ初ホールドをマーク。その後、17日のDeNA横浜戦でプロ初勝利を挙げるなど、全144試合中67試合に登板。ドラゴンズ投手陣の屋台骨を支え続けた。そんな一年を振り返っての、又吉克樹の第一声はおそらく、僕らファンの誰一人として想像していなかった言葉なのではないだろうか。

又吉克樹 「全部、物足りないシーズンでしたね」

67試合という登板数も、同僚で同い年の福谷浩司が72試合という数字を残している。さらに防御率でも1.81と、又吉克樹のそれを上回っていることがひとつの理由でもあるが、それだけではない。同じサイドスローで、同郷の先輩にも当たるオリックスバファローズ比嘉幹貴投手の、防御率0.79という数字に目を置いていた。

又吉克樹「オリックスの比嘉さんは素晴らしい成績を残しています。そういう方々の力を見たら、僕なんかまだまだ。周りが騒いでいるだけなのだなと思ってます」

ドラゴンズ首脳陣が、自分に何を期待しているのか。それを考えたとき、6、7、8回の終盤にビハインドもしくは同点の場面ならば、流れをこちらに持ってくるようなピッチングで相手を斬ること。リードしている場面ならもちろん、そのままクローザーの岩瀬へ繋ぐこと。失点をしてしまうこと自体が、「仕事をキチンと完了することが出来なかった」となるのだ。

又吉克樹「(自らの防御率が)2点台でしょ。6回を投げる先発投手ならまだ許される数字。だけど(中継ぎを任されている)僕にとっては、決して合格点などとは思えない数字です」

2014年シーズンの又吉克樹の被打率は.178。これに近い数字を持った日本人の中継ぎ及びクローザー投手を探しても、ほんの僅かしか見当たらない。

一岡竜司(広島).152(31試合登板)
五十嵐亮太(ソフトバンク).168(63試合登板)
西野勇士(オリックス).169(57試合登板)
谷本圭介(日本ハム).177(52試合登板)など

福谷の被打率が.206、比嘉は.248となる。しかし被打率の低さが、防御率へと結びつかない又吉克樹の、いくつかあるだろう理由のひとつが四死球の多さ。81回と1/3イニングを投げて、28個の四球と4個の死球を足した与四死球率は3.54と高めだ。さらに。

対右打者17打数5安打
対左打者20打数7安打

と、合計被打率が.324となった、真ん中寄りに集まってしまった失投も見逃せないだろう。

又吉克樹背中を押されてマウンドへ上がっても、ヒットや四球を与えて走者を溜めてしまっては意味が無いですから」

ちょっとしたことで試合が左右するのが終盤の攻防。それはずっと野球を続けてきた者なら誰でも分かることであるし、頂点であるプロの世界で戦う者ならなおさら。だからこそ、2点台となってしまった防御率が許せないのだ。

又吉克樹「僕はこのチームで、のし上がったなどとは全く思っていない。これから始まるキャンプでも、置いて行かれないようにとの危機感しか持っていません」

ヒットはもちろん与えない。四死球もゼロ。短いイニングなのだからこそ、パーフェクトで抑えて次の人へ繋ぐという思いが、プロ野球人・又吉の考え。昨年の67試合中、約30%に当たる20試合がそれに当たる。その中でも光るのが8月9日から17日までの試合で見せた、5試合連続登板無安打無四球。そう、これをもっと長く続けていくこと、それこそが又吉克樹の挑戦なのであり、プロとして彼が掲げる理想のピッチングなのだ。

2013年に日米通算4000本安打を達成したイチローは、次のように答えた。

「4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきている」 又吉克樹のプロとしての姿勢も、イチローの言葉に集約される。もしかしたら周りは、20試合もパーフェクトで抑えたのだから凄いと言うかも知れないが、僕の数字で言うと47試合は悔しい思いをしてきたのですという内なる思いが、彼とのインタビューでこちら側に物凄く伝わってきたのだ。プロ初登板のことや初ホールド、プロ初勝利などと言ったことを聞こうと思っていた記者だったが、そんなことは何の意味も成さないことなのだと痛感させられた。

精度を高めるキャンプにする

又吉克樹「まだまだ(アウトローへの)角度も足りないですし、もっとやっていくこともあります」

彼の一番の武器は、右打者に対するアウトコースだろう。昨年のピッチングでは外角の高目、真ん中、低目のコースで65打数7安打、被打率は.108と抑えた。

対右打者175打数27安打76奪三振、被打率.154
対左打者106打数23安打28奪三振、被打率.217

右打者に対し、左打者への被打率は高くなる一方で、2.3人から1個を奪っている右打者からの三振も、左打者との対戦では4.6人から1個と、右打者ほどの力強さは見られない。

又吉克樹「この沖縄キャンプで、例えば新球などといった新しい試みが無いことはないが、それで自分の持っている良さをなくしてしまうと意味が無い」

ストレートのキレ、球の出どころからミットへ収まるまでの角度、スライダーの精度などなど。例えば左打者へ対抗する真新しい術に挑戦する、といったことよりも今は自分の長所、自分が出来ることを突き詰め、それらを高めていくことが大切なのだと語った。

又吉克樹「これから先も、今に満足していたなら終わりですから」

鹿取氏との対談でピッチャーズプレートの使い方を聞くなど、数々の好打者を打ち取ってきた往年のレジェンドサイドハンドに積極的に質問していた又吉克樹。踏み込み箇所の大切さや、シュート、シンカーを極めることで左打者には特に有効なのだよと、鹿取氏も親切に伝授していた。ところで又吉克樹の、各チームの助っ人たちとの対戦は上手くいった方だ。

バレンティン(ヤクルト)8打数0安打
バルディリス(DeNA)6打数1安打
ブランコ(DeNA)5打数0安打
グリエル(DeNA)6打数0安打
ゴメス(阪神)7打数2安打
マートン(阪神)3打数0安打
エルドレッド(広島)3打数0安打
※(3打数以上)

打率は1割にも届かせない。大リーグでも中々お目にかかれないサイドからの"キレ"が、彼らのバットから快音を遠ざけた。友利結投手コーチは「右の強打者助っ人を好む球界において、又吉のスタイルが綺麗にハマったし本人も分かっていた」と、キャンプを訪れた鹿取義隆氏と話してもいた。それでも、又吉克樹の口から自らを認める言葉は出てこない。

又吉克樹「その分、四死球などで塁に出しているでしょう」

マートンへの3四死球はさすがに多いが、バレンティン、ゴメス、エルドレッドに各1つずつ。残りはゼロと決して多い方では無いのだが、自らダメ出しを行う。どこまでも自分に厳しく、どこまでもストイック。それが又吉克樹なのだ。

ゴールデンエイジ組

1990年4月から91年3月生まれの同年の選手たちがいま、プロ野球の次世代を担うゴールデンエイジの集まりとなりつつある。

2013年に113打点を挙げて打点王に輝いた浅村栄斗(西武)や昨年31セーブをマークした西野勇士(オリックス)に、同じく12勝した西勇輝(オリックス)。さらには一岡竜司(広島)、松葉貴大(楽天)、東浜巨(ソフトバンク)、大田泰示(巨人)そして同僚の福谷浩司などなど。そんな彼らと同い年となる又吉克樹だが、本人はそこのところには殆ど興味が無いようだ。

又吉克樹「90年生まれの周りには良い選手が多い。その中に自分が含まれていることは嬉しいけど、だからと言ってそのことに関して僕は全く気にしていません」

高校や大学の1、2年の時点では、全く名前が知られることが無かった自分に比べて、彼らはその殆どが有名な選手。その意味での嬉しいという気持ちと、全く違う道を歩んできた彼らと、突然一緒にされてもなぁという素直な気持ちが入り混じっているのかも知れない。

小林正人氏が太鼓判

シーズンを終えた又吉克樹は、10月17日からドミニカ共和国のウインターリーグに参加。疲れを見せず計17試合に登板し防御率1.69と成果を残した。これには又吉克樹も「実戦で色々試せたことは大きかった」と語った。ただ身体が資本のプロ、ここまで突っ走ってきたことについてももちろん、無頓着ではない。

又吉克樹「このキャンプでケガをしないように、離脱しないようにとの考えは強い」

この一年間の疲労は、ルーキーイヤーだったからこそ、自分では分からないところも多い。トレーナーの話も聞きながら、身体のケアも怠りなく過ごすキャンプともなるだろう。

又吉克樹と同じく中継ぎとして活躍。10年間で293試合に登板し62ホールドを記録した小林正人氏は、昨年限りで現役選手を引退し、現在は球団の広報として東奔西走する。その小林氏にも、又吉克樹について伺ってみた。

小林正人氏「言葉や練習態度など、全てに置いて信頼出来る選手の一人でしょう。今年も間違いなくやってくれるピッチャーの一人でしょう」

福谷と浅尾拓也、そして岩瀬とともに又吉克樹が、ドラゴンズの終盤の方程式を担う存在になるのではないだろうかと語った小林氏の言葉はそのまま、ドラゴンズファンや僕ら沖縄のファンの期待でもある。2013年の防御率が2.12だった比嘉は、昨年の防御率を0.79にまで高めた。さらなる飛躍を目指す又吉克樹が今年、比嘉と同じように防御率0点台をマークする気がするのは僕だけでは無いはずだ。

2月1日からのキャンプ。野球ファンの皆さんも、是非とも北谷球場へ足を運んで彼とドラゴンズナインに声援を送って欲しい。チバリヨー!克樹!!

Profiel

又吉克樹

1990年11月4日生まれ。西原高校、環太平洋大学を経て香川オリーブガイナーズへ。中日ドラゴンズからドラフト2位指名を受けて入団。ルーキーイヤーの昨年、9勝1敗2S。奪三振率は驚異の11.51をマークするなど67試合に登板した。昨シーズン自己最速の151kmを記録するなどまだまだ発展途上の魅惑のサイドスローだ。180Cm74Kg右投右打。24歳A型。
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