上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り
上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り その6
2015-02-14
ザンジバル野球プロジェクト始動
ザンジバルに赴任後、まず私の配属先であるザンジバル国立大学へ向かった。その途中にある広場という広場のすべてに、木の枝で出来た手作りのサッカーゴールは見えるものの、内野のダイヤモンドやバックネットなどは皆無。日本や沖縄だと、プレイヤーが誰ひとりいないのにグランドだけはあるという普通の光景が、この島では通用しない。野球の需要は無いと聞いてはいたが、それをまじまじと実感出来た瞬間だった。だがグランドさえあれば、その辺で遊んでいる子供たちに声をかけて集めれば、キャッチボールくらいは出来るかもしれないと考えた私は、まず自宅周辺からのグランド探しを試みたものの、野球が出来る立地条件や環境など、それに適したグランドはなかなか見つからなかった。
ちょうどその頃、ザンジバルに土着し、住民の経済自立に向けた支援活動を約30年も前から続けられている革命家の旗手である島岡強氏に出逢うことが出来た。ある食事会での席の話の中で、私がなぜアフリカに来たいと思ったのか、そしてここで野球をするにはどうしたら良いのか、ということなどを島岡氏に相談したところ、実はザンジバル政府のスポーツ局長も「野球を始めたい」と願っていたとの情報を得ることが出来た。「その方に逢わせてもらえませんか」と、その場で即お願いした私は後日、島岡氏からザンジバル政府のスポーツ局長を務めるハッサン氏を紹介してもらい、同氏から次のような話を伺うことが出来た。ザンジバルの子供たちの中には野球に興味を示している子もいること、更にグランドも用意出来ているのだが、グローブやバットなど、プレーをするための道具が全く無く、且つ教えてくれる指導者がいなかったというのだ。
人も場もあることが分かった私はとにかく、道具が無いという問題を解決するため、NPO法人アフリカ野球友の会代表の友成晋也氏(現タンザニア野球代表監督)に相談してみたところ、有難いことに試合が出来るだけの道具を一式揃えて、僕らに提供してくれることになった。いてもたってもいられなかった私はすぐに船で友成氏のいるダルエスサラームへ向かい、グラブ20個とボール10ダース、バット2本を頂いてきた。ザンジバルでの野球の導入を考えていた政府スポーツ局、それを相談されていた島岡氏、そしてタイミングよく派遣された私と、このような有難いご縁に恵まれてついに、ザンジバルで野球はスタートすることになったのだ。
彼らの無垢な笑顔が、本来あるべき姿、原点を思い起こさせた
そして2014年9月21日、オリンピックアフリカトレーニングセンターにて、ザンジバル島で初めて野球が行われた。と言ってもグラブの使い方はもちろん、はめ方やボールの握り方も知らない子供たちにとって野球のすべてが初体験だ。左手用のグラブを右手にはめるのは当たり前、右足を上げたまま右手で投げたりする。そんな彼らに、一つひとつを説明しながら、どうにかこうにかキャッチボールをさせることが出来たものの、その距離は5mが精一杯。その後のバッティング練習では私がピッチャーを務め、皆をバッターとして打席に立たせたものの、ストライクゾーンが分かろうはずもなく、三振も四球も区別しない彼らに私が出来る指導はたったひとつ。「来た球を思い切り打て!」。頭より高めのボール球や、ワンバウンドする球にも食らいつく彼らに当初は苦笑いしていた私だが、彼らの自由奔放な姿と笑顔を見せられ、徐々にこれが野球の原点なのだと感じ始めてもいた。「捕った!捕った!」「当たった!当たった!」と、一球一球に一喜一憂したこの日の彼らの笑顔を、私は生涯忘れないだろう。(上原 拓)
沖縄県で学童軟式野球県大会が開かれたのは1972年の1月。少々の紆余曲折を経て現在の春季、夏季、冬季の県大会の形となって120回が過ぎた。そこには今も昔も変わらないように見えるが、決定的に違うのは昔の野球小僧たちは殆どが、柔らかいプラスチックのボールを使った「ぷーかー野球」を野原で楽しんで過ごしていたが、現在ではその姿を見ることはほぼ皆無となっている。どれが良し悪しというわけではないが、心から楽しんでいた昔の野球小僧たちの姿を、拓先生が僕らに伝えるザンジバルの子供たちに、投影してしまうような気がしたのは僕だけではないだろう。
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