上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り
上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り その7
2015-03-14
グラウンドまでの道
真っ赤な太陽に青い海など、どことなく沖縄を感じさせる島、それがザンジバルだ。島特有のビーチリゾートに加え、中心街のストーンタウンが世界文化遺産に指定されていることもあり、訪れる観光客は非常に多い。イタリアやケニアなどからは、タンザニア本土を経由しないザンジバル直通の飛行機が飛んでいるくらいだ。その観光客らを受け入れるため、タウンや海岸沿いには1泊数百ドルもする高級ホテルが建ち並んでいる。そこだけを見れば、ハワイと何ら変わらないリゾートである。しかしここはやはりアフリカ、タウンから少し離れると自然の中で動物たちとのどかに暮らしている人たちがいる。野球の練習が行なわれているグラウンドはストーンタウンから車で50分ほど走ったところにあるドレという地域にある。私が住むモンバサという地域からでも30分ほどはかかる。華やかなストーンタウンから車で15分も走ると、コンクリートの建造物は見られなくなり、林の中に赤土と藁でできた小屋がぽつりぽつりと見えてくる。電信柱と電線の数は一気に減り、代わりに井戸や動物たちが見えてくる。ここがアフリカであることをまじまじと感じさせる光景である。
日本で車生活に慣れていた私にとっては不便極まりない上に、さらにグラウンドへ向かう道の途中で「車では入れない道」が出てくる。舗装されていない赤土の野道である。だが、この道を越えなければグラウンドへは行けないのだ。ここまで来ると、現地人以外の人を見るのが珍しいのか、地域の子どもたちが「チナ?チナ?(中国人のこと)」と笑いながら追いかけてくる。更に、牛やヤギ、ニワトリやトカゲなどを横目に約30分歩くと、その先に見えてくるのがオリンピックアフリカの建設したスポーツ学校だ。
最初のうちは道が全く分からず、グラブやバットなどの道具も私一人で持ち運んでいたので、政府スポーツ局のハッサン局長が送迎してくれていた。しかし、私がいつまでもお客さんのように公用車で送迎されていてはダメだと感じていたことと、プレーだけではなく道具の管理等もチームで出来るようにならなければと考えていたこともあり、子どもたちにも先生方にも慣れてきた頃を見計らって、スポーツ学校のムッサ校長に道具管理をお願いすることにした。道具の持ち運びが要らなくなり、身軽になった私はダラダラと呼ばれるバスを使い1時間ほどかけて一人で通えるようになった。
練習時間よりも移動時間の方が長い現状だが、このように時間をかけてグラウンドへ辿り着くのは私だけではない。子どもたちも同様である。ある子は牛の散歩の合間を見て、ある子は畑の雑草抜きを終わらせて、野球がやりたくてみんなあの道を歩いてくる。そうかと思えば私がグラウンドへ行っても、誰も来ない日もあるのだ。だが、それもまたいい。グラウンドへ続く野道、「今日もあの子は来るかな」「どんな練習をしようかな」と、一人歩きながら考える。今の私にとっては「大切な、そして、大好きな時間」である。(上原 拓)
高校野球に限らず、中学でも朝早くから練習をするチームは増えてきている。朝陽が昇るのが早い夏場だと、6時過ぎには集まってアップを開始するところもあるかも知れない。だが、現状はどうだろう。ある高校の先生が以前、次のように語ってくれた。
「朝、親に起こされる。寝ぼけ眼で親が作るご飯を食べて準備に取り掛かる。もちろん親の車で学校へとやってくるが、車の中で居眠りをする者もいれば、携帯をイジりながら到着する者もいる。グラウンドに着けばもちろん、甲子園へ向けて一所懸命練習に励んでいるのだが、果たしてそれで本当に成果が出るのだろうかと疑問に思う。大会でも、そう思った程度の結果しか残せていない」
全く同感だ。例えば本当に野球が好きで、心から上達したいと願い、毎日の練習を心待ちにしている子供がいたとする。もちろん朝のちょっとした目覚まし音で飛び起き、前日から準備していたバッグを背に自転車に跨りグラウンドへと駆け出して行く子供がいたとするならば、前述した子との差は歴然としてくるのではないだろうか。 「ザンジバルではみんな、ろくに舗装もされていないデコボコ道を、それこそ何キロも歩いてグラウンドへ向かい野球をするのだよ」という拓先生の強いメッセージが込められている今回の便りを、君はどう感じるだろう。
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