上原 拓先生のアフリカ(タンザニア・サンジバル)便り Final Chapter of the Series
2016-05-15
自分も、世界も変えるシゴト
2016年3月9日、活動を終えた私はとうとうザンジバルを去ることになった。
5年前、アフリカの子どもたちと野球がしたいと思い立って青年海外協力隊に応募、語学力不足などの理由による2度の不合格を経て、3年越しに野球をまったく知らない島へ派遣された。
野球をしたい私、島の子どもたちに野球というスポーツをさせてみたいと考えていたハッサン氏、それを相談されていた島岡強氏との出逢い。
様々に絡み合うご縁によって私はここで活かされてきた。
文章屋ではない私の拙い言葉を連載として県民の皆さまへ伝え続けてくれた本誌ライター當山氏とのご縁もその一つだ。出逢うべき人には必然的にタイミングよく出逢うのだと聞いたことがあるが、それは本当にそうなのかもしれない。
2014年9月21日、「これが野球ボールだ」と初めて紹介した1年半前、まだキャッチボールが練習そのもので、ルールを少しずつ覚え始めた私たちはダルエスサラームへ試合相手を求めた。
帰ってきてからも練習を続けた。ザンジバル内でも試合をやりたいとチームを2つに分けた。
チームが増えると道具が足りなくなり、練習の仕方を工夫した。そのような時、県高等学校野球連盟から1600点もの野球道具が届いた。
子どもたちと共に喜び、県民の皆さまからの支援に心から感謝した。その道具を使い、野球教室を開催した。初期から活動を共にする子どもたちが初めてコーチになった。
その成果が実って島の端っこにも更に2チームが創設された。現在、ザンジバルには4チーム約80名の野球選手がいる。
2016年2月25日、変則的ではあったが、その4チームが一堂に会する野球大会も開催された。
これまでの経緯を一つずつ辿ってみると、いつからか、野球はもう彼らのものになったのだと実感することができる。
今後の活動継続と更なる発展を期待して、私の後任でザンジバル入りする新隊員には野球経験者を派遣してほしいとJICAタンザニア事務所に強く要望した。
私は帰国するとすぐ学校現場へ戻ることになる。この経験を沖縄の子どもたちに還元していくことはもちろんだが、現地では入手できない道具類の支援、精神的サポートなどを中心にザンジバル野球の応援も継続していくことを決意している。
それはやり始めた者の責任であり、私の新たな志でもある。
私がこの世を去るまでに、ザンジバルに野球が根付くのかどうかさえ見通しはつかないが、できることをコツコツと地道に続けるつもりだ。
いつか彼らを沖縄に呼んで本物のスタジアムに立たせてやりたいという想いもある。
ダルエスサラームへ引き上げる船の中、派遣前に協力隊員募集のポスターで見た「自分も、世界も変えるシゴト。青年海外協力隊」というキャッチフレーズを思い出した。
ザンジバルで野球が始まっても住民らの生活は相変わらずだった。世界はぜんぜん変わらなかったじゃないかと思った。
でも、たしかに自分は変わったような気がしていた。水は一度も出たことがない、停電も日常茶飯事の家に住み、文化や価値観が異なる現地住民と、聞いたこともなかった言葉で一緒に野球をした。
日本では当たり前だったことが当たり前じゃなかった。非常識が常識だった。日本の生活環境とは全く違う暮らしの中で、本当に多くの有難みや幸せを感じた。
今、私の考え方や生き方は大きく変わっている。そのことに気が付くと、なんだか世界を見る私の目も変わってきた。私の活動によって世界を変えることはできなかったが、自分が変わることによって世界も大きく変わって見えたのだ。
あの日見たポスターの意味がやっと分かった気がした(上原 拓)。
聖書には「あなたの手に善を行う力があるとき、求める者に、それを拒むな」(箴言3章27節)という言葉や「貧しくても、誠実に歩む者は、富んでいても、曲がった道を歩む者にまさる」(同28章6節)という箇所がある。
拓先生自身、ご自分の思いでやっただけであって、ザンジバル島民のために善を尽くした、とは考えておられないだろう。
しかし、彼らは「求める者」へと変わってきた。それは彼らの成長の証でもあった。
それを拒まず、最善の道を探り歩み続けた拓先生の行動は、彼らの中で志となって永遠に生き続ける。また、貧しくてもグラウンドに何時間もかけて通い、誠実に練習に励む彼らの姿は、拓先生の心の中で同じように残り続ける。
世界を変えるのは、目に見えるモノだけではない。目に見えないモノを残すことこそ、大切なことなのだということを、このシリーズを通して感じて頂けたなら幸いである。
僕自身も、このシゴトによって変えられた者の一人であり、それは僕の一生の宝となっていく。全てに感謝します!(當山)。
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