上原 拓先生のアフリカ(タンザニア・サンジバル)便り その19

2016-03-15

具志川商業高校野球部で部長などを歴任していた上原拓先生。現在はアフリカタンザニアの地でJICA(ジャイカ)青年海外協力隊の一員として、野球を通した様々な活動に励んでいます。私たちには想像もつかない遠い国ではどのようなことが起きているのでしょうか。彼の意思を尊重しておきなわ野球大好きが、彼の活動報告や現地の写真などを報告していきます。

第3回タンザニア甲子園

2015年12月3日、第3回タンザニア甲子園大会には、アザニア、キバシラ、ムワンザ、サンヤジュウ、ムベヤ、ザンジバルの6チームが集った。

本来なら昨年参加していたソンゲアも来るはずだったのだが、隊員帰国後は活動が出来ていないことや遠征費の面がクリアできず、今回は参加できないとのことだった。

昨年はあんなにも元気にプレーしていたソンゲア、現地の人々だけで野球を継続させることの難しさをあらためて感じた。

今大会はAブロックとBブロックに分かれてのリーグ戦が採用された。抽選の結果、私たちの初戦の相手は優勝候補のキバシラとの開幕試合に決まった。

相手にとって不足は無く、チャレンジャーとして思い切りぶつかるだけだ。

試合前、「みんなで野球を楽しもう」とだけ声をかけた。私自身、もしかしたら勝てるかもしれないと考えていたが、それは甘すぎた。

緊張から腕が縮こまってしまったラシッドは、四死球で走者を出しては打たれるという悪循環に陥る。打撃陣も相手投手の球速に手が出ず三振の山を築いてしまった。

ルール上のミスなどは一切無く、完全なる力負けだった。

規定の5イニングを終え、2対12という大差で敗れたのだ。

しかも、試合途中で選手たちが勝負を諦めてしまうという態度も見られた。

去年は点差に関係なくがむしゃらに野球を楽しむだけだった選手たち。この一年で、良い意味でも悪い意味でも彼らが野球を知りつつあることを実感した。

試合後のミーティングで、「なぜお前たちは途中で勝負を諦めたんだ?野球はみんなでやるスポーツだ。ピッチャーだけじゃない、バッターだけじゃない、レギュラーだけじゃない。ベンチの選手も、声をかけたり指示をだしたりしてみんなで戦うんだ。それができない奴は今すぐザンジバルに帰れ‼」と、ここに来て始めて彼らを叱り飛ばした。

「おれはもうお前たちと野球したくない」と言い捨て、私は二試合目の審判をした。その間、とても寂しかった。

審判を終え、本部席で休んでいるとキャプテンのカリムが「あの後、みんなで話し合ったんだ。明日は最初から最後までみんなで戦うよ。今日はごめん。だから明日も一緒に野球してもらえないかな。」と言ってきた。

その後、皆を集めて本当にチームみんなで戦う気があるのかを確認した。真剣な眼差しで私を見る彼らの目に手応えを感じて初日を終えた。

二日目の彼らは、昨日とは全く違う雰囲気で試合をした。「ピッチャー、ナイスボール!‼」「フィールダーズ、2アウトだぞ‼」「キャッチャー、ランナー三塁だよ‼」ベンチとフィールドの間でも大きな声が飛び交い、みんなで試合をしている。

全員野球というものが、本大会の中で初めて実践されたのだ。

その試合、ムベヤに28対8で勝って3位決定戦に望みを繋いだ。

三日目、3位決定戦の相手は、昨年8対7で辛勝したムワンザだ。

前日と同じように、選手一人ひとりがそれぞれの役割を果たした彼らは昨年の点差から大きく引き離し、21対0で大勝した。

本戦初挑戦にして3位になった彼らは、ザンジバルの大海原で船を漕ぐパフォーマンスでその大きな喜びを表現し、いつものごとく歌い踊った。

有難いことに、初日にあんなにも怒鳴り散らした私まで担ぎ上げられ、みんなで胴上げをしてくれた。彼らの気持ちが本当に嬉しかった。

本大会でプレー以外の部分を振り返ってみると、ユニフォームの着こなし方、相手チームや審判に対する尊敬の態度、攻守交替時の全力疾走など、ザンジバル野球はどこにも負けない姿勢で試合に臨んでいたと自負している。

タンザニア本土に3年遅れて始まった私たちの野球も本土の野球を牽引できるだけの部分がでてきた。3位という成績に甘んじず、来年こそは優勝を果たしてくれることに期待している。

本大会は優勝アザニア、準優勝キバシラという結果で終えた。

この一年、私たちは他チームに勝つことを目標にして練習を続けてきた。彼らの存在があったからこそ、ザンジバルの選手たちも途中でやめることなく続けてくることができたのだ。

優勝を争うライバルであり、タンザニア野球の発展を目指す同志でもある他チームすべてに感謝している(上原 拓)。

社会を知らない学生にとって、野球はその縮図である。チームの一人であるスター(会社の一人が優秀)でもミスを犯すことがある。そのときに誰も声を掛けず、手を差し伸べないチームは負けるべくして負けるだろう。

一方、誰かに出たミスをその他のメンバーがフォローしあうチームは、簡単には負けないし逆転することだって可能だ。全員野球を実践することが出来たザンジバルナインは将来、彼らの生まれ故郷を彼ら自身の手によって、よりよいものとしていくことだろう。野球を通して得たことが、人生の礎となるのだ(當山)。

 

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