上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り
上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り その11
2015-07-15
挫折。そして、また一歩。
大会参加にあたり、まず必要なのはルールの理解だった。
ルールを知らないと勝負どころではないし、対戦相手にも失礼になる。
そこで、「この球はストライク」、「この球はボール」、更に、ストライクが3つで三振、ボールが4つでフォアボール等といった基礎的なことから始めた。
試合を見たことのない彼らに説明する上で最も工夫したのは "視覚的に示す" ということだ。
身体で表現できることは手本を見せ、出来ないことも目で見て分かり易い方法を選んだ。
例えば、ホワイトボードを購入し、テープを細く切って野球場を見立てた説明用ボードを作ったり、木の枝を4本拾い集めて実際にストライクゾーンを作ったりするという具合である。
私のスワヒリ語はもちろんだが、沢谷・斎藤両コーチのスワヒリ語を持ってしても細かな説明は難しい。
そのハンデを視覚的に補うことを重要視したのだ。
色濃く残る差別。そして苦渋の決断
大会まであと1ヶ月というところまで迫ったが、ルールも技術も「試合はまだ難しいだろう」というレベル。
それに加え、練習日は週に2日しかなく、大会本番まで僅か数回のみである。
最初から分かっていたことではあるが、やはり厳しい。
このまま大会に出て本当に大丈夫なのだろうか…そう感じ始めていた時、活動初期から支援してくれている島岡強氏から忠告を戴いた。
「君たちがこの大会に出るとタンガニーカvsザンジバルという図式になる。
昔からそうだが、タンガニーカが勝つと新聞やニュースは面白がって大きく報道するが、ザンジバルが勝っても良い報道はされないぞ。
この試合に勝てるか?もしくは大敗してマスメディアに酷く叩かれた時、子どもたちはそれに耐えられるか?
キミたちはまだやり始めたばかりではあるがザンジバルの代表だ。これから育つ芽を摘むことにもなり兼ねない」
それを聞いた時、ふと故郷のことを思い出した。
ザンジバルとタンガニーカの関係性が、沖縄と日本のように感じられたのだ。
今でこそ観光地として人気のある沖縄だが、昔は沖縄出身というだけで差別されていた時期があったと聞く。
当時を生きていたウチナーンチュの先輩方は、どのような心境で海を渡ったのか。
何に希望を持って上京したのか、怖くなかったのか、と色々なことを考えた。
それと同時に悔しさも込み上げてきた。勝てるか?と聞かれて、まず勝てないと考えている自分がいたからである。
ザンジバルの住民はこの島に誇りを持ち、タンザニア連合共和国となった今でも「私たちはザンジバル人だ」と胸を張っている。
このチームが負けるということはザンジバルが負けるということ、政治力でタンガニーカに劣っている部分が大きい分、せめてスポーツでは負けたくない。
沖縄で生まれ育った私は、島岡氏が代弁したザンジバル島民の気持ちが痛いほどに理解できた。
大会まであと2週間と迫った日、私は大会出場の断念を決意した。
しかし全く参加しないという選択ではなく、本戦トーナメントには入らず、敗退チームと非公式に試合をさせてほしいと提案したのである。
これなら結果を気にすることなくルールの勉強に集中できるし試合も経験できる。
冷静になって考えてみるとこれほど良い参加方法は無さそうに思えた。
一度は本戦出場を目指したものの、それを直前で諦めたのはある意味では大きな挫折だったのかもしれないが、自分たちの置かれた状況をしっかりと見つめ直し、そこからより有意義な一歩を踏み出すため、現在のチームにとってベストな方法を選択したのだ(上原 拓)。
元日本高等学校野球連盟会長の故・佐伯達夫氏の尽力により1956年、沖縄県高等学校野球連盟が設立。
その2年後、同じく佐伯氏の計らいで第40回全国高等学校野球選手権記念大会へ招待されたのが首里高校であり、春夏通じての、沖縄から初の甲子園出場校となった。
当時の沖縄はまだ差別の色も濃く残り、本土のチームとの力の差も歴然であった。
且つ対戦校である福井県敦賀高校は当時、春夏合わせて14度目の甲子園とあって、敦賀高校の大勝が大方の予想(10点以上の差がつくのではないかと予想した、とはその試合を実況した方の弁)であったが、スコアは0対3。
首里高校を率いた故・福原朝悦氏の元には、「よくやりましたね。」との、大会本部の方々の労いの言葉であふれたという。
ザンジバルチームにとっても、そのような第一歩を踏み出すことが出来れば、という思いに馳せた今回の頼りには拓先生の、福原朝悦先生のようなこの地の礎になりたいという気持ちがあふれている。
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