上原 拓先生のアフリカ(タンザニア・サンジバル)便り その20
2016-04-15
第1回ザンジバル野球大会
日頃の練習成果を発揮する機会が無いことは、選手たちのモチベーション維持にとって大きな障壁となる。それは競技が普及しないことを意味するのだと考えている。
現在タンザニア国内で開催されている唯一の野球大会、第3回タンザニア甲子園を2015年の12月に終えて帰ってきた選手たちは、来年の大会開催までの時の長さに現実味を持てずにいた。それは練習態度や言動になって現れた。
私は彼らの姿勢に多少のイラつきを覚えながらも、仕方のないことだとも感じていた。私だって、この環境ではそうなるのかもしれないと思ったからだ。
しかし、そのままでいいとも思わなかった。12月末、日頃の練習をもっと実のあるモノにしようと選手たちに訴え、「ザンジバルで野球大会を開催してみないかと提案した。これはずっと考えていたことではあったが、タイミングやチームの状況により、3回ほど途中で断念してきた過去がある。
しかし、翌年3月に帰国を控えた私にとって、もうこれが最後のチャンスだった。選手たちは大会開催に大喜びで賛成した。
急ピッチで準備にとりかかった私とオスマン先生が、まず相談したのは教育長のハッサン氏だ。彼は活動開始当初から協力してくれている強力な支援者で、良き理解者でもある。話し合いの結果、両手を挙げて賛成してくれたハッサン氏は、テントやマイク、トロフィーなどの大会に必要な道具をすべて用意してくれることになった。
その後、オスマン先生は近隣の学校を駆け回り「ザンジバルで初めてのベースボール大会を開催する。生徒たちをぜひ見学させてあげてほしいと、各校長らにお願いした。
一番大きな問題は出場チームだった。
現在4チームが活動しているが、始まって日の浅い2チームはキャッチボールさえもままならない。ルールも全く知らないので試合になるはずがなかった。
話し合いの結果、試合ができる2チームによる決勝戦のみを行うことに決定した。
しかし、残り2チームにとっても野球の試合を見ることができる貴重な機会だ。このチャンスを無駄にはしたくないという想いをオスマン先生と共有し、試合見学ということで大会に参加させることにした。
どうしても、全4チームに意義のある大会にしたかったのだ
2016年2月25日、ついにこの日を迎えた。
第1回ザンジバル野球大会の会場に選ばれたマゲレーザトモンドには、「MWANAKWEREKWE C」、「 YOUTH STARS」、「LANGONI」、「KIDOTI 」の4チームが集った。
テントには、前日にみんなで紙に書いたスコアボードやスケジュール表が貼られた。漁を営む島岡氏からお下がりで頂戴した網でバックネットを作った。
その周りには約200名ものギャラリーが居る。そんな状況の中で試合をする2チームは良い手本になってほしかったし、試合をしない2チームにも野球を楽しんでほしかった私は、開会式のスピーチで全チームに対して「他チームを敬うこと、攻守交替は全力疾走すること、野球を楽しむこと」の三つを要望した。
KWEREKWE C と YOUTH STARS の試合は、見ていても面白いシーソーゲームを展開した。
アウトや得点をとる度に、選手たちの歓喜の後にはギャラリーの大きな歓声が続いた。
8-8で迎えた5回裏、KWEREKWE C が相手のミスに乗じて1点を獲り、サヨナラ勝ちで大会初優勝を決めた。
閉会式では、教育長ハッサン氏が大会のために用意してくれたトロフィーが決勝2チームに授与され、島岡強名誉会長からは4チームの選手全員に参加賞として日本製の三色ペンが手渡された。
帰国直前になってしまったが、ザンジバルで野球大会が開催できたことは個人的にとても感慨深いものがあった。
しかし、4チームの選手全員を試合に出場させてあげられなかったことは、私の力不足だったと自覚している。ようやく大会開催まで漕ぎ付けたザンジバル野球、今後の活動継続を期待しつつ、私はもうすぐザンジバルを去ることになる。帰国後も共にできることを地道に続けていくと彼らと約束した。私に新たな志ができた(上原 拓)。
ベースボールの「ベ」の文字さえ知らなかったザンジバル島民が、タンザニア国内で開かれている野球大会に出場しただけでなく、自分たちの島での第1回大会を開くまでになった。拓先生一人だけでは、到底かなわない大きなプロジェクトであったのは周知のとおりだが、拓先生がその道を「拓く」ことをしなければ何も変わらなかったはずだ。
小さな目標から未知なる目標まで、僕らの前にはたくさんの可能性をもった人生の道しるべが、実は無数にあるということを、このシリーズを通して伝えられたなら。拓先生にとっても、おきなわ野球大好きにとっても本望である(當山)。
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