上原 拓先生のアフリカ(タンザニア・サンジバル)便り その14
2015-10-15
新たな壁
4月に入った。練習を始めて約8ヶ月、基礎基本が定着してきてそれなりに野球らしくなっている。しかし、それに伴って困ったことも幾つか出てきた。
それは、年末のタンザニア甲子園で、ダルエスサラームの選手たちが見せた細かなプレーを、うちの選手たちが簡単に真似することだ。
ダルエスサラームのチームは3年前から活動を始めているので、技術も高い。そのようなチームを見て学んだことを実践するのは素晴らしいことだから褒めてもやりたいが、それはプレー内容に依る。
例えば、その一つが牽制球である。「ピッチャーはストライクを投げてバッターと勝負するのだ」としか教えていなかったラシッドも、大会後は牽制をするようになった。
しかし、意図を理解せずに多用するのでその効果は無い。むしろ悪送球してランナーを無駄に進塁させたり守備陣のリズムを崩したりしている。
しかも全部ボークだ(笑)。
現段階では、ボークを教えるよりも試合の大まかな流れを定着させたいと考えている私からすると牽制禁止令を出したい気分だが、ルール上は問題無いのでそうもいかず「バッターとの勝負を楽しもう」とだけ言い続けている。
盗塁も見て学んだプレーの一つだ。大会後から、ランナーは必ずと言っていい程走る。
それを刺せるキャッチャーが居ないのもこちらとしては痛いところだ。
何も考えずに走るだけなので、ホームスチールまで簡単に実行する。そうなるとバッターは打撃を躊躇してしまい、「どんどん打とう」という私の指導は活きない。
更に、場面や状況も関係なく走るので、そのうち、大差で勝っている試合でも盗塁することになるだろう。
これはルール違反ではないものの、相手チームへのリスペクトに欠ける行為となる場合がある。このことに関しては様々な意見があるはずだが、私はルールブックに載っていないunwrritun rulesも大切にしたい。
ここに来て、野球を通して何を伝えるかということも改めて再考している。
雨季とラマダン
ここタンザニアには四季が無く、乾季と雨季の二季しか無い。雨季には一年分の雨量が短期集中的に降るので、その勢いは半端ではない。
家屋や樹木の倒壊により死者が出るくらいだから、正直、野球どころではない。
体育館などの室内練習場は一切なく、車などの移動手段も持たない私たちにとって、雨の日は練習が休みというのはごく自然なことだ。
5月、ザンジバルも雨季に入った。ただでさえ少ない練習日を雨のために休むことも多々あった。それでも雨の降らない日は、短い時間でも練習を続けた。
6月、雨季が明けると、今度はラマダンが始まった。ラマダンというのはイスラム教の断食月のことで、朝5時半頃から夕方6時半頃まで一切の飲食が禁じられる。食物を摂取できないということは日常生活を送る上でも苦しいことだ。
ましてや練習で体力を消耗するスポーツ選手にとっては非常に困難な状況と言っていいだろう。さらに、水分補給さえもできないので事はいよいよ深刻である。私は、選手の健康を考えた末、ラマダン期間中の練習休止を提案した。
しかし、選手たちは「Hamuna shida‼(問題ないよ)」と言って聞かない。
それならばラマダン期間中は1時間だけ練習しようという結論で合意した。
このような厳しい状況の中、練習を続けると決意した選手たちの気持ちに応えるため、断食による空腹と口の渇きを共感しながらグラウンドに立ちたいと思った私は、自分自身も断食することに決めた。
初日、空腹にはなんとか我慢できたものの、今まで経験したことの無い口の渇き具合に耐えられず、水を一口飲んでしまった。
初日から妥協してしまった自分の弱さを反省していると、選手たちへ申し訳ない気持ちになった。
このような身体の状況で果たして本当に練習が出来るのだろうか。彼らにとっては毎年のことで慣れているとはいえ、成長期の身体のことを考えるとやはり心配ではある。
気象環境や宗教的行事が主な原因だとは思わないが、ここザンジバルで多くのスポーツが普及されてこなかった理由の一つには、それらも少なからず関係しているのではと思った(上原 拓)。
今回は簡単にではあるが宗教について話そう。キリスト教、イスラム教、仏教。これらは民族間での宗教とは異なり、世界各地へ広がっていることから世界3大宗教とも呼ばれる。
このうち、キリスト教とイスラム教は実は、ユダヤ教と同じ神(旧約聖書に登場する)を信仰の対象としているのだが、イエス・キリストを神の子として認める、認めないで分かれている。
古くからの日本は周りを海で囲まれ、他の民族からの攻撃などなく且つ、豊かな自然に恵まれたため大自然=神(例えば太陽神、海の神、山の神)とする民族だが、中東は砂漠に代表されるように不毛の地が多く、さらに周りは違う民族=敵が襲ってくる恐怖とも戦わねばならなかった。
今回出てきたラマダンは、イスラム教の礎を築いたとされるムハンマドが、およそ1400年前に敵に勝利したことを記念して以来、ずっと行ってきたのが、このラマダン月の断食であるのだ(當山)。
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