上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り
上原拓先生のアフリカ(タンザニア・ザンジバル)便り その12
2015-08-15
初めての試合
非公式での大会参加とはいえ、より有意義なものにするためには大会が行われるダルエスサラームへ上京する前に試合の形だけでも経験しておくことが効果的だ。
しかし、かろうじて試合が出来そうなのはザンジバル代表チームのみなので、練習試合の相手になるチームがいない。
そこで私たちは、ザンジバルで生活している外国人に試合相手になってくれないかと頼んでみることにした。街で外国人を見かけては声を掛け、お願いすることを繰り返した。
もともと大きな期待はしていなかったがなかなか見つからない。結果カナダから旅行で来ていたジャックさん一人だけが手伝ってくれて、出発の一週間前に初めて試合形式で練習を行うことができた。
その日の朝、今大会に向けて日本のNPO法人から寄贈されたユニフォームを初めて目にした選手たちは興奮しながら着方も学んだ。
ザンジバル代表チームVSザンジバル控え選手にコーチ陣を加えたチーム、どちらも未熟なので3イニングで1時間半と時間は長くかかったものの、投げて打って走って捕るといったそれは、まさしく野球そのものだった。
ザンジバルで初めて野球の試合が行われたその様子は、翌日の朝刊の一面で報道され、選手たちのモチベーションは更に上がることになった。
ハプニング
出発まであと5日と迫ったが実はまだ、交通費に問題を抱えていた。
予算を捻出してくれる政府スポーツ局長のハッサン氏に顔を合わせるたびに催促していたが中々スムーズにはいかなかった。
とうとう出発の二日前、「スポーツ省から予算が降りてこない。来月にならないとお金が入らない」との連絡があった。
フェリーに乗らなければダルエスサラームへ行けない私たちにとってそれは最悪の事態だった。
フェリー代は一人往復4万6千シリング。平均月収が10万シリングを下回る保護者たちの経済状況を考えると徴収することはまず不可能。
選手15名分だと69万シリングにもなる。野球に理解の無いザンジバルで、一日でこれだけの大金を作れるわけがない。
これまでのハッサン氏の尽力を考えると彼が悪いわけでないことは十分に理解していたが、この怒りをどこにぶつけていいか分からず、ハッサン氏に詰め寄ってしまった。
怒鳴り散らしたところでお金が出てくることもなく、政府の幹部を相手にした約束でも信頼できないこのタンザニアという国に、心底がっかりした。
そのことをオスマン先生に報告した時、慣れた様子で対応する彼の姿から、このようなことはよくあるのだということが感じられた。
直前に非公式参加になったとはいえ、この大会にかける大きな思いを胸にこれまで練習を頑張ってきた選手たちのことを思うと、このチャンスを潰してしまうことは本当に悔しかったし、ザンジバル野球の将来のためにも良くないと感じた。
落ち込む彼らを見れば見るほど私はこの遠征をどうしても諦められず、何か策はないかと考えていた。
その時「来月にならないとお金が入らない」というハッサン氏の言葉を思い出した。
ザンジバル野球の自立のために私個人のお金を使うことはしないと決めていたが立て替えなら問題ないのではないか。
そう思い付いた私はすぐに島岡氏に相談した。「立て替えるなら現地の人間も含めてみんなでやることが大切」とのアドバイスを頂きすぐ行動に移した。
再度スポーツ局を訪問しチームで立て替えて遠征した後、スポーツ局から返金してもらえないかと提案したのだ。
「これまでチームの努力を見てきているからね。それでいこう」とハッサン氏から了承を頂き、政府に借金を負わせる形で合意した。
野球を始めて二十数年、大会会場に行けるというだけのことがこんなにも嬉しく感じた経験は無く、数時間前に怒鳴り散らしたハッサン氏を目の前にして私は涙をこらえるのに必死だった。
その後、選手たちを招集して、みんなで少しずつお金を出し合おうと提案。個人差はあったもののみんなで集めたお金は15万シリングにもなった。
オスマン先生も家から少しのお金を持参してくれた。残りはコーチ陣3名と島岡氏で負担した。最悪な状況にも下を向かず皆のチカラを集結したからこそ、出発の前日になってようやくフェリーのチケットを買うことが出来た。
その夜、この大きな喜びを日本で応援してくれている友人らにも共有してもらいたかった私は「諦めることを諦めてみた」と万感の思いで報告したのだった。 (上原 拓)
お金の使い方は人それぞれ。自分のお金ならどう使おうが、誰に文句を言われる筋合いもない。だが日本には先人たちが残してくれた素晴らしい言葉がある。
「情けは人のためならず」だ。ザンジバル野球の自立のために、私個人のお金を使うことはしないと決めていた拓先生の気持ち(メッセージ)が投影されている今回の便りに対し、君はどのように受け止めるだろうか。
僕の答えは「世の中結局、お金がないと何も出来ない、ということは無い。信じて叩き続ければ扉は開く!」である(當山)。
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