英語(カタカナ)を漢字に当てはめた野球用語

知ってる知らなかった 野球用語の日本語訳

2014-09-11

カタカナで表記される日本の野球用語は、英語のようで英語ではなくアメリカ人に通じない日本独自の言葉が多いことは、前回までに取り上げましたが、そのような言葉とは別に漢字に当てはめた表現もたくさん使用されています。明治時代にベースボールが「野球」と訳され、日本の野球黎明期に、「飛球」「四球」「走者」など現在も使われる野球用語が生み出されました。今回は普段からよく使われている漢字の野球用語をはじめ、新聞、雑誌で使われる漢字の野球用語、言い回しや略語などを取り上げてみました。

「ベースボール」を「野球」と訳した中馬庚

アメリカから日本へベースボールが伝わったのは、明治4年(1871年)のこと。来日した米国人ホーレス・ウィルソンが当時の東京開成学校予科で学生に教え、その後全国的に広まったとされています。その「Baseball(ベースボール)」を「野球」と最初に訳したのは、中馬庚(ちゅうまん かなえ)です。第一高等中学校で名二塁手として活躍した中馬が、卒業時に「ベースボール部史」の執筆を依頼され、執筆も終盤の明治27年(1894年)秋、「Ball in the field」という言葉をもとに「野球」と命名しました。ベースボールは野原でするので「野球」と説明したそうです。その部史は、翌明治28年(1895年)2月に、学制改革で第一高等学校となったことから「一高野球部史」として発行されました。中馬は、明治30年(1897年)に一般向けの野球専門書「野球」を出版。これは日本で刊行された最初の野球専門書で、日本野球界の歴史的文献と言われています。明治30年代には一般にも「野球」という言葉が広く使われるようになったといいます。バレーは排球、サッカーは蹴球、テニスは庭球、ボクシングは拳闘など、ほとんどのスポーツは日本語の名前がついていますが、 現在も普通に使われて定着しているのは、野球と卓球くらいじゃないかと思われます。このように長く使われ愛される言葉を生んだ中馬庚は昭和45年(1970年)には野球殿堂入り(特別表彰)を果たしています。

野球用語を多く生み出した正岡子規

 日本を代表する俳人、歌人の正岡子規も野球黎明期の熱心な選手で、野球を愛した一人です。中馬庚が「ベースボール」を「野球」と翻訳する4年前の明治23年(1890年)に、本名の升(のぼる)をもじった「野球(の・ぼーる)」という雅号を使っています。そのため「野球」という言葉を編み出したのは正岡子規という俗説も生まれましたが、「野球(の・ぼーる)」はベースボールを訳したものではなくベースボール好きの子規が自分の名前をもじってボールを球に置き換えたものと思われます。野球という言葉の正式な生みの親ではありませんが、正岡子規は現在まで使われている漢字の野球用語を多く残してします。明治29年に新聞「日本(にっぽん)」に連載した随筆「松蘿玉液(しょうらぎょくえき)」の中で、子規は「打者」「走者」「四球」「死球」「直球」「飛球」などと野球用語をオリジナルで訳し、ベースボールについて詳しく紹介したそうです。子規は、野球を詠んだ短歌、俳句も数多く残しており、新聞や自分の作品の中で野球を紹介し、その普及に多大な貢献をした功績が認められ2002年には野球殿堂入りを果たしています。

ちょっと物騒??。野球用語に使われる「死」「殺」「刺」「盗」。

アウトカウントを数えるときに、普段はノーアウト、ワンナウト、ツーアウトと数えるのが一般的ですが、文章に書くときには、無死、一死、二死と表されことが多いですね。また、ダブルプレーは「併殺」、トリプルプレーは「三重殺」、フォースアウトは「封殺」、ランダウンプレーでアウトにすることは「挟殺」いう言葉が使われます。野球用語では、「死」はアウト、「殺」や「刺」はアウトにすることを意味します。走者が投手の牽制球でアウトになった場合は「牽制死」、ホームでアウトになったときは「本塁憤死」などと書かれます。文章でなくても、例えば、捕手が一塁走者の盗塁を阻止するために二塁に送球してアウトにしたときは「二塁で刺した」とか、内野ゴロでバックホームして三塁走者をアウトにしたときは「三塁ランナーをホームで殺す」など、ちょっと物騒な表現が使われます。盗塁の場合は英語でも「スチール=steal」ですから「盗む」は直訳だと思われますが、「死球」は和製英語の「デッドボール」(英語ではhit by pitch)をさらに漢字に置き換えたと思われます。野球というスポーツは、文字だけでみると物騒なゲームに見えてきますね。

太平洋戦争中には、野球用語を全面日本語化

 1943年(昭和18)の3月、野球の用語、ルールから英語が消えました。軍の意向を受け、野球用語を全面的に日本語化することが、職業野球(プロ野球)理事会で決定されたからです。この当時は太平洋戦争の真っ只中であり、敵性語として英語の排除が進んでいました。戦局が悪化するなか、中等野球(現在の高校野球)、都市対抗野球、東京六大学野球などが相次いで中止されましたが、職業野球だけは行われており、職業野球を存続させるためにと軍の意向通りに日本語化を受け入れました。ストライクは正球、ボールは悪球、セーフは安全、アウトは無為などに変わりました。審判も、ストライクワンは「よし1本」、フォアボールは「一塁へ」、アウトは「ひけ」、三振アウトは「それまで」などとコールするようになりました。また、ルールも敵性語の影響や武士道に反するという理由でいくつか変更されました。ユニフォームのロゴは全て漢字、打者は球をよけてはいけない、最後まで戦い抜くために選手の途中交代は禁止、9回表で勝負がついていても敵を徹底的に打ちのめすために9回裏の攻撃も行ったそうです。

このときに作られた言葉の中にも、生還、封殺、総当戦、自責点、球団などが現在に残っています。

太平洋戦争中に日本語化した野球用語

ストライク正球
ボール悪球
ヒット正打
ファール・ボール圏外
セーフ安全
アウト無為
ファール・チップ擦打
バント軽打
スクイズ走軽打
ヒットエンドラン走打
ボーク疑投
ホームイン生還
タイム停止
フォース・アウト封殺
インターフェア妨害
スチール(盗塁)奪塁
リーグ戦総当戦
コーチ監督
コーチャー助令
アーンドラン自責点
チーム球団
ホームチーム迎戦組
ビジターチーム往戦組
グラブ、ミット手袋
フェアグラウンド正打区域
ファールグラウンド圏外区域
ファールライン境界線
スリーフィートライン三尺戦
コーチャーズボックス助令区域

太平洋戦争中に日本語化された審判用語

プレイボール始め
ストライク一本、よし一本、よし二本、よし三本と数える
三振アウトそれまで
ボール一つ、二つ、三つ、四つと数える、四球の場合は「一塁へ」
フェアヒットよし
ファールボールだめ
セーフよし
アウトひけ
ボーク反則
インフィールドフライ内野飛球

新聞や雑誌で使用される野球用語の略語。

新聞や雑誌の野球記事は漢字表記が中心となっています。さらに、略語も多く使われます。略語は、打撃結果、守備結果を読者に伝えるために使われますが、それはポジション(方向)+打撃内容・守備内容という形で表現されます(※表1+※表2の組み合わせ)。例えばヒットの場合「一安」だとファーストへの内野安打、「遊安」だとショートへの内野安打、「中安」はセンターへのヒットといった具合です。長打の場合、レフトへの二塁打は「左二」、センターへの三塁打は「中三」、ライトへの本塁打は「右本」と表記されます。また、どのようなヒットだったかを記事本文で具体的に表現する場合は、センター前ヒットだと「中前打」、レフトオーバーのホームランだと「左越本塁打」などと表現されます。「三ゴ」「遊直」「左飛」「捕邪飛」などは、アウトに打ち取られたときの表現ですが、それぞれ「サードゴロ」「ショートライナー」「レフトフライ」「キャッチャーへのファールフライ」を意味します。ファールフライは邪飛と表しますが、なぜだと思いますか。それは、「邪(よこしま)」な飛球(フライ)だからです。邪(よこしま)の意味は「正しくないこと。道にはずれていること」ですが、そもそもは横しま「(正しい方向から)横にそれる」という意味合いを持ちます。つまり、fairな(正しい)方向からファウルラインの横にそれた飛球(フライ)は「邪飛」ということになります。

※ショートストップの日本語の訳「遊撃手」は、最初に正岡子規が「short=短く」「stop=遮る」を直訳して「短遮」と呼んだ。その後に、野球の名付け親でもある中馬庚が「 ショート・ストップは戦列で時期を見て待機し、動き回ってあちこちを固める"遊軍"のようだ」と説き、「遊撃手」という名称が広まった。

▼ヒットを表す略語例

「一安」=ファーストへの内野安打
「中安」=センターへのシングルヒット
「左二」=レフトへの二塁打
「中三」=センターへの三塁打
「右本」=ライトへの本塁打

▼アウトを表す略語例

「三ゴ」=サードゴロ
「遊直」=ショートライナー
「左飛」=レフトフライ
「捕邪飛」=キャッチャーファウルフライ
「犠打」=犠牲バント・送りバント
「犠飛」=犠牲フライ
「併殺」=ダブルプレー
「三重殺」=トリプルプレー

▼ その他のよく使われる新聞(雑誌)用語

「敵失」=相手の失策(エラー)
「野選」=野手選択・フィルダースチョイス
「守妨」=守備妨害
「振逃」=振り逃げv 「暴投」=ワイルドピッチ
「補逸」 =パスボール
「適時打」=タイムリーヒット
「重盗」=ダブルシチール
「主戦」=エース
「主軸」=クリーンアップ
「制球」=コントロール
「救援」=リリーフ

※ 表1

数字守備位置略語英語英略字
1ピッチャー投手PitcherP
2キャッチャー捕手CatcherC
内野手InfielderIF
3ファースト一塁手First Baseman1B
4セカンド二塁手Second Baseman2B
5サード三塁手Third Baseman3B
6ショート遊撃手ShortstopSS
外野手OutfielderOF
7レフト左翼手Left FielderLF
8センター中堅手Center FielderCF
9ライト右翼手Right FielderRF

※ 表2

安打略語英語英略字
シングルヒット安打single, a base hitH
ツーベースヒット二塁打double2B
スリーベースヒット三塁打triple3B
ホームラン本塁打home runHR
凡打(アウト)略語英語
ゴロゴロgrounder
ライナー直飛球line drive, liner
フライ飛球 fly
ファールフライ邪飛球邪飛foul fly

 

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