「ヒッティングチャンス」200回放送記念スペシャルトーク(その1)
ゲスト 我喜屋 優氏
2015-04-15
試合の明暗を分けるのは人間力と精神力
當銘「FMコザが送りますヒッティングチャンスも満4年、200回を迎えることが出来ました。ありがとうございます。その記念放送の今夜、興南高校の理事長、学校長、そして硬式野球部の監督を務めます我喜屋優氏にお越し頂きました。」
我喜屋「どうぞよろしく。」
當銘「ご自身の興南旋風や春夏連覇など、また改めて色々とお話を伺うことが出来ればなと思います。大変失礼ながらその2010年の連覇以降、中々勝ちに繋がっていないですよね。」
我喜屋「チーム作りとしては、先輩たちがやってきたことにプラスして新しいことを取り入れながらね、戦力的には毎年、上のレベルまで来ているのですが、やはりそこは勝負の世界ですから、ちょっとしたことで明暗が分かれてしまっているのがここ数年続いていますね。」
當銘「例えばゲームの中であのプレーが、ということが」
我喜屋「野球ですから、そういったことは多々あるのですが、それを無くすために普段から練習しているわけでして。それだけではなく、人がやることですから人間力を備えておかないといけないので小さいことを全力で取り組むこと、どんなことも理解する能力を蓄えるなどを重視してやっています。ただ野球だけ上手い、というわけではなくて、やはり明暗を分けるのは人間力、精神力。その見えない部分をしっかりとした選手作りということに主眼を置いてやっています。」
當銘「その人間力。連覇のメンバーには朝の散歩をさせてスピーチをさせるということをやってきた。」
我喜屋「散歩に行くということは、そのあとの1分間スピーチのために行くのですね。見て、聞いて、触れて、匂いを嗅いで。その感じたことをニュースとしてみんなに伝える。それは散歩だけではなくて、新聞あるいはテレビから話題を拾って話してもいい。そこで相手が頷いてくれれば伝わったなと。その逆もまた聞くだけではなくて、いつ指名されてもいいように、しっかり散歩して心のメモを取ってくる。初めのうちはみんな、いつ指名されるのだろうと緊張しているが、最近は自分を指名してくれないかなという感じで手を挙げてくる。これが野球に生きてくるわけですよ。ここというときに選手同士が指示しあえるし、自分の第六感が働いてくる。散歩などで培った五感が備わらないと直感、第六感は働かないですね。」
當銘「散歩の時は監督もご一緒に?」
我喜屋「うちの場合は全員一緒に散歩、とはいかない。散って歩け、という字のごとくそれぞれの思いの中歩く。みんなが同じ道を歩いていると、同じ情報しか入って来ないですよね。それを違う道に行くことによって様々な情報が入ってきますからね。それを朝、みんなで共有しあって今度は食事、味覚ですね。散歩をしてきた方が味覚もぜんぜん変わってくるのです。いままでの沖縄の子たちと違って、連覇のときのキャプテンだった我如古など、全ての選手が受け答える能力が備わってきましたよね。大学へ進んでもリーダーになっていますよね。」
高校野球が終わってからずっと続く人生のスコアボード
當銘「ホントですよね。我如古くんが立教大学。ソフトバンクホークスに入団した島袋洋奨くんが中央大学。法政大学で安慶名舜くん。真栄平大輝くんも明治大学で寮長。」
我喜屋「今までの沖縄の子たちには無いような、幅広く色んなところでリーダーとなる。私の目標がそれでしたから。」
當銘「ひとつの同学年から、4,5人が日本の中央である東京でキャプテン、リーダーというのは日本でも例がないのでは」
我喜屋「今までは、どこどこの有名大学へ入ったぞ、万歳、だけ。それだけでなくてね、その大学でどういう存在、どういう価値観でいられるかということが大事。また出口もね、どういう就職をしたのかということが大事になってくる。大学へ行ったけど野球をやらなかった国吉兄弟の大陸も、明治大学在学中に取れと約束していた公認会計士を取得。大将も早稲田大学で学業トップクラス。将来はイギリス留学ということが決まっています。」
當銘「約束、とおっしゃいましたが。」
我喜屋「アメリカまでJAPANの代表として行った彼には、たくさんの大学から誘いがありました。だけど彼が野球をしないのであれば、切り替えてと。公認会計士の道を選ぶならやる以上は在学中に達成しろと。彼は『出来ます』と答えたのですね。その根拠は、興南での野球の練習や寮生活の厳しさに比べれば、夜の11時や12時まで勉強するのは楽ですからと(笑)。彼は授業中から集中力があって、成績もオール5ですから。野球だけじゃなくてピアノも弾く、英字新聞も読めた。幼い頃からの集中力、将来をきちんと見据えた高校生でしたからね。同じ野球仲間からみても、非常に良い見本となるでしょう。」
當銘「監督が仰っているスコアボードは、終わったあとから長い長い人生のスコアボードがあるのだよと。」
我喜屋「野球の世界だけで頑張るのも良いけど、どちらにせよ間違いなく進むところはプロも含め社会人としての世界。そこで通用するような人間になること。9回の裏表だけで終わるのではなく人生の長い、延長50回というところまでいくかも知れないという、気の遠くなるようなスコアボードに、ゼロをひとつひとつ並べていくのだということが大事になってきますからね。」
タネも仕掛けも子供たちにあった24年振りの甲子園出場
當山「3月号のチーム紹介で興南高校を取り上げようということになって、2,3日前にお伺いしましたが、お世辞抜きで集中力と体力が凄い。興南アップと呼ばれる練習アップからずっと見ていましたが、どこで休むのだろうというくらい次の練習、次の練習へと移動していく。それが疲れも見せず統率も取れている。ミスも出るのですが、僕の目には凄く高い次元でのミスにしか見えず、我喜屋監督が仰ったように、秋に比べて凄く力が上がってきている。あとはそれを、例えば春の大会でも初戦か2回戦か、早い段階で、この冬取り組んできたことが出たぞというような、自身に繋がる勝ち方をすれば、一気に頂点までいくだろうなという確信みたいなものを、グランドで感じることが出来ましたね。」
我喜屋「高校野球ですから、勢いに乗ればあれよあれよということもあるのですが、でもその裏付けというのは、他人には見えないところにある。朝のゴミ拾いだったり、1分間スピーチ、食事を好き嫌いなく食べること、その後の片付けや清掃だったり。その見えない部分が勝敗を分けるのだと言ってきました。練習のときに手抜きする選手は一人も居ないし、意味を知って練習している。最後まで一所懸命やっているなという気はします。ただ、この一所懸命が花開くかどうかというのは、そこは勝負の世界ですから。過去の負け方をみても、技術や練習量で劣ったわけではないなと。普段からの小さいことの積み重ねがもう少しあればなというのが、負けた時のひとつの反省材料になってきますよね、当然最終的には、指揮官である私の采配が、年間を通して試合を通して左右してくるわけですから、その辺は私も反省しなければいけない部分もあるわけですよね。」
當山「いかに相手に気持ちを伝えられるかが、イコール、ベンチで支持する監督さんの本意を選手がどう汲み取ってグランドで発揮するかという意思疎通にも繋がる」
我喜屋「24年間も甲子園から遠ざかっていたチームが、甲子園出場を3ヶ月で達成した(2007年)。その裏にはやはりゴミ拾いの散歩だったり、整理整頓、躾、道徳という人間力作りからはじまったものですから。それを我喜屋マジックで甲子園に出た、という人も居たけれど、タネも仕掛けも子供たちにあったわけですよね。そこからの積み重ねが春と夏の連覇に繋がっていった。他校の監督さんたちからみても、例えば智辯和歌山高校の高嶋仁さん(甲子園通算勝利数歴代1位の63勝利)とか、横浜高校の渡辺元智さん(甲子園5度制覇)とかからも、質が違うと。この子たちは大人だと。根っこ作りの大事さを子供たちが分かっていたのです。野球を通して、先々の成功者になるのだという見据えたものがあった。
ややもすると、連覇のあと、今は今、昔は昔と。連覇のことを言うとプレッシャーになるという話もあるけど、これは『逃げ』であってね。連覇をした彼らの中にも悪いところはあったのだから、良いものを取り入れる、悪いところを捨てる。そういう伝統歴史というのは学んでいかないといけない。過去を見て、今の自分たちを見て、新しいものを創っていくのだとすれば、過去はとても大事になってくるのです。ところが、過去に目をつぶれという人に限って、今も目をつぶるひとが多い、逃げちゃうのです。
ウチはまた、出し惜しみしない。全国の指導者にも練習法や興南アップはさらけ出している。何故って、甲子園というところが、逃げも隠れも出来ないところでサインを出さないといけないのです。そういう意味でも堂々と、どうぞご覧下さいと。そこまでして他のチームの有利になることをしなくても、と心配されるOBの方もいるけど、沖縄全体の力が上がればいいし、日本全体が上がればいいこと。その役割をどこかの高校が率先してやると。それが興南ならば、その役目を担っているだけでも幸せだなと感じています。」